マーク竹田こどもクリニック



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喘息(気管支喘息)について
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 「ヒューヒュー・ゼーゼーいうような呼吸を伴った呼吸困難が繰り返し起こるもの」を気管支喘息といいます。

 ヒューヒュー・ゼーゼーは空気が出入りする管(気管支)が狭くなってでる音で、喘鳴(ぜんめい)といいます。この音は口を大きく開けて息を吐くときに最もよく聞こえます。聴診器がなくても背中に直接耳をあてると聞こえることも多いですので、ご両親の方も聞いてみてください。


* どのようにして喘息になるの?

 息で吸い込むものに対して気管支がアレルギー反応を起こすと、喘息を発症します。体質と環境因子がからんでいると考えられています。乳幼児期にアトピー性皮膚炎であった児が多いのですが、アレルギー体質ではないと思っていた児も発症することがあります。
 

* 一番の原因はダニ

 原因となる環境因子で一番多いものは、室内のほこり中のダニの糞や死骸の分解物です。その他にも猫などのペット、ゴキブリなどの昆虫、カビなども原因となります。また大人では解熱鎮痛剤でも喘息発作を起こす人がいます。

 またアレルギー以外でも次のようなことが原因や誘因となって喘息が起こることがあります。
カゼをひいたとき
運動をしたとき(これを運動誘発喘息といいます)
気象・季節の変化(梅雨時と秋に発作が起きやすい)
・自律神経の作用(に悪化しやすい)
ストレス(怒られただけでも発作を起こすことがあります)
けむり(花火や線香・タバコのけむりは要注意)・大気汚染



*  喘息の発症は予防できるの?

 アトピー性皮膚炎児の約半数が喘息になると言われています。アトピー性皮膚炎の児や、両親や兄弟が喘息である児の喘息の発症を予防できるでしょうか。発症予防はなかなか困難ですが、考えられることは次の事です。

 ・環境対策をする
アトピー性皮膚炎児の家ではダニ対策を中心に環境対策をしましょう。環境対策の項をご参照ください。お母さんの喫煙は子供の環境という面からもぜひお止めになってください。
 
 ・適度な運動をする
適度な運動をすることは喘息の治療にもよいことです。運動の中でも水泳が喘息児に最もよい運動です。ただしベビースイミングは、私はおすすめしていません。
 
 ・抗アレルギー剤を服用する
抗アレルギー剤を持続内服することにより、アトピー性皮膚炎児の喘息発症率が50%から20〜30%に減少させることができるといわれています。この治療をご希望の方はお申し出ください。
 
 ・生後8ヶ月まで鶏卵を制限する
ご両親や兄弟に強いアレルギー体質がある場合は、生後8ヶ月までは鶏卵を制限するとよいという報告もあります。ただし制限は必ず主治医の指示に従ってください。保護者の方が勝手に極端な食事制限をして体重増加不良になってしまった子供をみることがあるからです。心身共に正常な発育を促すことがもっとも大切と思います。



*  喘息の治療はコントロールが大切! 

 喘息の人の気管支粘膜は、発作ではないときも腫れてただれて(これを炎症といいます)内腔が狭くなっており、ほこりなどに対して過敏な状態になっています。また発作を何度も何度も繰り返していくと粘膜は腫れたまま硬くなり(専門用語ではリモデリングと言います)、治療が効き難くなってしまいます。
  つまり治療としては、気管支粘膜の炎症を抑えて発作を起こさせないようにすることが大切です。重症例では発作がなくなっても2〜5年は続ける必要があります。

 ・徐放性テオフィリン薬(テオドール(R)、テオロング(R)、スロービッド(R)など)
すぐに効くがすぐに効かなくなるテオフィリンを、ゆっくり12時間効き続けるように作られた薬が徐放性テオフィリン薬です。軽い発作ではすぐに効くこともありますが、100%の力を発揮するのには丸3日かかります。
副作用として悪心や指のふるえ・動悸があります。特に一度に多量服用すると副作用が出て危険です。また高熱の際やマクロライド系抗生剤などとの併用でも副作用が出やすくなります。インフルエンザなどで高熱が続く際は1回量を半分にしてください。
 
 ・インタール(R)吸入
使用に際して道具がいるのが欠点ですが、喘息をコントロ−ルするのには大変に良い薬です。
軽症の小学校高学年以上の児では噴射式のエアロゾルやカプセルに入った粉末を吸入することもありますが、年少児や中等症以上の例では電動式ネブライザでインタール液を吸入します。
コントロール不良例ではインタールにβ刺激剤(ベネトリン(R)など)を混ぜて1日に数回定期的に吸入します。
運動による喘息発作には、運動前のインタールが有効です。
 
 ・ステロイド吸入剤 (アルデシン(R)など)
炎症を抑えるには最も効果的な薬です。血液中に吸収されても分解されやすい合成ステロイド剤の吸入薬が開発されてから、よく使用されるようになりました。現在のところアルデシンで1日に8押までは小児でも副作用は出ないとされています。
インスパイアーイースなどの補助具を用います。吸入後は口に付いた薬を飲み込むのを防ぐためにうがいをしてください。
  
 ・抗アレルギー剤(ザジテン(R)など)
当院では現在のところあまり使用していません。アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎の合併例にはよく使用します。



*  発作が起きてしまった時は?
家庭で使用する発作治療薬には、 
・経口β刺激薬(ホクナリン(R)・ブリカニール(R)・メプチン(R)・スピロペント(R))
・吸入β刺激薬(ベネトリン(R)・メプチンキッドエア(R)など)
・徐放性ではないテオフィリン薬(アルビナ(R)坐剤)
があります。
 
喘息発作で

顔色の悪い場合、
苦しくて横になれない場合、
1ヶ月以内に喘息発作で入院している児で、
  苦しくて普通には遊べないもしくは睡眠中に何回か目を覚ます場合
は、夜間であっても直ちに医療機関を受診(経口または吸入β刺激薬がある場合は服用してから)してください。(夜8時から翌朝6時までは桜木町の横浜市夜間急病センターをご利用ください。当院が休診の場合は横浜市医療情報センター045-201-1199へお問い合わせください。)

喘息発作の為にいつも通りには遊べなくなっている場合
(ただし1ヶ月以内に入院していない児)
は、まず経口または吸入β刺激薬あるいはアルビナ(R)坐剤を使用してください。経口では30分以内に、吸入では5分程度で効果が見られます。症状が改善しないか、改善しても3時間以内に再び苦しくなるようであれば医療機関を受診してください。軽い発作状態が続くことが多いですので、β刺激剤と同時に徐放性テオフィリン薬を使用するとよいでしょう。

日常生活には全く支障のない軽いゼーゼーだけの場合
は、まず安静にし経口β刺激剤やテオフィリン薬を使用してください。ゼーゼーが続く場合は医療機関を受診してください。

  年長児になると苦しくても頑張ってしまい、一見元気だが実は重い発作ということもありますのでご注意ください。



*  喘息の検査について

 喘息の検査としては、喘息の程度がわかるピークフロー・フローボリューム曲線・動脈血酸素飽和度(SpO2)や、アレルギー状態の評価としての総IgE・RASTなどがあります。
 
 ・ピークフロー
喘息発作の時は、細いストローをくわえた場合のように息を思いっきり吐いた際の最高スピード(これをピークフローといいます)が遅くなります。つまりピークフローは喘息発作の程度を表すと考えてください。朝と晩に家庭でピークフローを測定すると、喘息の治療方針を決めていくのに大変に参考になります。

 ・フローボリューム曲線
スパイロメトリーという器械に息を思いっきり最後まで吹き込むと、はいた息の量とスピードがフローボリューム曲線というグラフになって出てきます。ピークフローが正常になっていても、息をちょうど半分はいたときのスピード(V・50 ブイドット50)が低下している人は、末端の細い気管支がまだ正常の太さに戻っていないためにまだ治療が必要です。
 
 ・パルスオキシメータ(動脈血酸素飽和度SpO2)
発作もひどくなると血液の酸素が少なくなってしまいます。パルスオキシメータは、指にはさむだけで動脈血ヘモグロビンの何%が酸素を運んでいるかがわかります。正常は98〜100%です。
 
 ・総IgE
総IgEはアレルギー体質の強さと考えていただいてよろしいかと思います。高値である人の方が喘息も重症という訳ではありません。採血をして検査します。正常値は1歳未満で20単位/ml未満、7歳以上で170単位/ml未満と年齢とともに上昇します。
 
 ・RAST(ラスト)
ダニ・ネコ抗原・鶏卵など各々のものに対する反応の強さをみます。これも採血検査です。反応の強さを弱い方から0〜6段階に分け、ダニ:スコア6、ネコ:スコア3などと表現します。スコア2以上を反応があるものと判断します。
すべてのものに対するRASTの合計が総IgEと考えていただいてよいのですが、総IgEが正常範囲内でもRASTスコアが2以上のものがあったり、検査した項目のRASTスコアが正常でも総IgEが高値であったりすることもあります。
 
 ・その他の検査
どの程度の量の気管支収縮薬を吸入させると発作が起きるかをみる気道過敏性試験や、抗原液を皮膚につけて反応をみる皮内テスト・プリックテスト・スクラッチテストなどがあります。
運動誘発喘息が疑われる場合には運動負荷テストをおこない、その前後のフローボリューム曲線を比較します。



*  喘息の日常生活について

 ・発作中の登校・登園について
発作が起きて薬がない場合は、必ず午前中に受診してください。喘息は夜に悪化します。午前中から薬を服用した場合と、夕刻から服用した場合とでは夜の苦しみ方が違います。
軽い発作でそれなりの治療中の場合は、夜間睡眠が十分であれば登校登園はかまわないでしょう。
 
 ・体育について
喘息のために体育を長期見学している児童生徒がいると聞きますが、それはおかしい。できるようにコントロールすべきです。
 
 ・遠足・修学旅行・運動会について
このような行事の前にはコントロール治療を強めることがあります。事前にご相談ください。
 
 ・掃除・生き物飼育当番について
ほこりの多いところの掃除や、生き物の飼育当番はなるべく避けた方が良いでしょう。
 
 ・予防注射について
予防注射は、発作のひどくない時は受けてかまいません。



*  喘息の環境対策

 大部分の喘息患児にとって家の中のホコリは大敵です。ホコリ1g中に1000〜3000匹のダニがいると言われているからです。
 
 ・部屋の湿度と換気
ダニは湿気が好きです。湿度50%以下が続くと全滅してしまうとも言われています。天気の良い日の日中は窓を開けて外の乾いた空気を入れてください。その際は湿気やすい押入も開けておくとよいでしょう。
 
 ・内装や家具
じゅうたん・カーペットは、家庭で洗えるもの以外はできれば除去してください。除去できなければ3日に1回は1畳当たり30秒以上かけてゆっくり丁寧に掃除機をかけてください。
布製のソファーや椅子も丁寧に掃除機をかけてください。合成皮革や革張りの方がダニがつきにくいと言われています。
ぬいぐるみもなるべく数を増やさないようにしましょう。お気に入りのものは手洗いで、ふつうのものはネットに入れて洗濯機で月1回は洗いましょう。
その他、観葉植物などホコリがたまりやすいものはなるべく室内におかないようにしましょう。
 
 ・寝具
家庭で洗濯のできる毛布・フトンカバー・シーツや枕は、なるべく頻回に洗いましょう。枕は丸洗いのできるパイル製がおすすめです。
朝のふとんは、人の汗でかなり湿っています。週に1回、汗の多い時期はなるべく毎日、天日干しもしくはふとん乾燥機をかけてください。
ふとんを乾燥させることは、ダニの繁殖を押さえる効果はありますが、喘息の原因となるダニのフンや死骸を除去する効果はありません。週に1回は、ふとんの片面当たり30秒以上かけてゆっくり丁寧に掃除機をかけてください。寝具専用のノズルを使用すると、やりやすいようです。
 
 ・掃除
寝室はできれば毎日、畳・カーペットはせめて3日に1回は掃除機をかけてください。
掃除機は、200W以上のものであれば一般に市販されている普通のものでかまいません。お金をかけるなら、集塵袋を頻回に取り替えることにお金をかけてください。長いホースのついた掃除機(日立の“象の鼻掃除機”)で本体を屋外に出したまま掃除するのも効果的です。
 
 ・カビ対策
カビによる喘息やアトピー性皮膚炎も増えてきています。多湿であれば低温であっても発生するのがカビとは違うところです。冷蔵庫内でもカビは発生します。また窓や押入・浴室などの結露には特に注意してください。
 
 ・ペット とくにネコについて
イヌ・ネコ・ハムスターな どのペットも喘息の原因となることがあります。
特にネコは屋内で飼育する場合が多いためか、ネコによる喘息が増加しています。ネコの皮膚に喘息の原因となる物質(ネコ抗原)が多く含まれています。メスねこよりオスねこの方が多く産生します。ネコ抗原は非常に軽く、一度舞い上がると室内では数時間空中に漂い続けます。またネコを手放してから数ヶ月も、その家にはネコ抗原が残るといわれています。ネコのいない家庭では少ないのですが、バスや電車・映画館などの “毛足の長い生地で覆われた座席”には、かなりの量のネコ抗原がついているとされています。

家や実家でネコを飼育している場合の注意点を示します。
・ネコを増やさない。
・外で飼育する。
・ネコを週1回洗う。
・オスねこは去勢する。
・掃除をより念入りに行う。(ネコがいるとダニも増える)


文責:竹田 弘(1999.11.27)第1版
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